伝統構法の古民家を再生する

伝統構法とは

 まず、伝統構法と在来工法の違いについてですが、木造軸組構法は、柱、梁、筋交い、付属金物や構造用合板で壁量を確保して、壁量の確保で地震や風力に家を建てるという構法を在来工法といいます。

 伝統構法は壁量に頼らず、構造架構、すなわち木組みそのもので家を建てるということで、壁に力を求めず単なる間仕切りと考え、大きな木を柱と梁として力強く組み合わせることによって耐力を生み出す考え方です。

 現在、我が国で建築されている木造軸組構法住宅の99%が在来工法であり、伝統構法は1%程にしかすぎないと考えられます。
伝統構法は木組架構そのものでありますから、長年にわたり受け継がれて来た型があり、それに居住性・現代性を求め、型を変形させてきています。構造そのものの美しさがある建物です。

 伝統構法は、現在の在来工法と構造の考え方が違います。
例えば地震に対しての考え方は、一口に言えば地震が起こった際にその力をどう逃がしていくかの考え方が、伝統構法は免震的構造、在来工法は耐震的構造となっています。
 免震構造とは、地震の揺れを各部で吸収して、地震エネルギーが建物に伝わり難くした構造です。耐震構造は、地震力に対して構造自体で激しい揺れに力で対抗しようとする構造です。
関東大震災(1923.9.1)を契機として、地震災害に見舞われるたびに耐震設計の基準は厳しくなりました。しかし、基準が見直される前の建物は依然使用されており、阪神・淡路大震災(1995.1.17)では、旧基準で設計された「耐震構造」の一部の建物で損壊・倒壊した例がありました。また、家具の転倒などの原因も含め、人的被害が多数発生しました。
一方、「免震構造」は、建物本体・収容物ともに被害を受けず、安全性・有効性が実証され、社会的な認知も高まってきました。

 伝統構法は締め固めた地面に石を置き、その上に柱を建てます。壁は柱と柱を通し貫で繋ぎ、竹小舞に土壁を塗る。地震等の外力が加わった場合、壁は土壁が壊れることで外力を吸収し、木組だけで固められた構造体はしなり、強い外力が加わって柱が石から外れ傾いたとしても構造体は壊れることはありません。
一方で在来工法は地面と一体となった基礎に構造体が緊結されていますから、地震等の外力がそのまま構造体に伝わります。
外力に対し、柱や梁といった構造体は伝統構法ほど太い材を使わずに抵抗する耐力壁と呼ばれる壁に筋交いや面材を使い、金物で補強します。
外力を受けても、しなり、曲がり、力を逃がす。そんな「柔」な木の特性は伝統構法の方が自然な使い方になっています。
現在、建築基準法の考え方は耐震が基本ですから伝統構法の住宅を造るのは難しいですが、ビルなどは免震構造の方が地震などにも有効だという事が実証され採用が増えています。

古民家の現況調査をする

古民家の再生を計画する前段として、現在の建物、床下などの劣化状況、耐震性能の確認をし、再生可能か判断をします。尚、古民家の鑑定をする専門家が古民家鑑定士、床下の調査を行う専門家が古民家床下診断士、伝統的構法の耐震診断・耐震補強計画を行う専門家が伝統耐震診断士、古民家再生計画を策定する専門家が伝統再築士となっています。

古民家の調査(インスペクション)は、
・古民家のコンディションが明確になる「古民家鑑定」
・ロボット調査により床下の状態が判断できる「古民家床下インスペクション」
・専用機器を用い伝統構法の耐震性能を判定する「伝統耐震性能評価」
の3つがあり、これらの内容をまとめた報告書が「古民家再生総合調査報告書」になります。以上の、3つの調査費及び報告書作成用で30万円(消費税別)となります。

※福井県内各市町では、伝統的構法の耐震診断及び、補強プラン作成に対して補助金が出る自治体があります。詳しくは、市役所、町村役場にてご確認ください。

福井県のHPで、耐震診断及び補強プラン作成の補助について https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/kenchikujyuutakuka/mokuzoutaishinsindan.html

耐震改修工事の補助について

https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/kenchikujyuutakuka/mokuzoutaishinkaisyuu.html

詳しく説明されています。

古民家再生総合調査報告書の内容について

古民家鑑定書

古民家鑑定書は、古民家に合わせた適確な建物コンディションの調査をおこない、リフォームや購入の判断材料を提供します。築年数の経過した建物は状態が悪い場合構造体などの改修に多額の出費がかかったりします。使われている木材や仕上げ材はいいものが使われているがこのままリフォームした方がいいのか、それとも建て替えた方がいいのか。また不動産として購入予定だが建物を利用したい場合にどの程度改修費用が必要かを知りたいなどリフォームや不動産購入を検討する際に必要な情報を資格者が調査して情報提供をおこなう事を目的としています。

古民家床下インスペクション報告書

古民家床下インスペクションは、一般社団法人住まい教育推進協会が認定する古民家床下診断士資格者の在籍する全国床下インスペクション協会がシロアリなどをはじめとした床下の害虫診断について自走式点検ロボットモーグル等を使い調査をおこない、古民家の床下コンディションについての報告をと提案を実施します。本調査を実施することで床下の状態や手入れのポイント等がわかります。
本調査の目的は人体への影響が懸念される薬剤による防虫処理に頼るのではなく、毎年の点検を実施し、蟻害の原因となる要因を取り除いた床下環境を維持することで健全な建物環境を保全する目的で実施しています。

伝統耐震性能評価報告書

伝統耐震性能評価とは、一般社団法人伝統構法耐震評価機構が認定する伝統耐震診断士資格者が、常時存在する地盤と建物の微震動を利用し、地盤と建物の振動を同時に測定及び解析し伝統構法の耐震性能を判定します。
伝統耐震性能診断の結果、建物の耐震性能に問題がある場合には合理的にかつ適切に耐震改修方策を設計して、建物の耐震 補強工事を実施し、その後再度、伝統耐震診断によって、補強工事による耐震性能の改善の効果を、数値的に伝統耐震性能評価指数の検証により確認します。

古民家鑑定について

古民家の構造体、仕上げの劣化状況、現況など、450項目を超える調査項目について、古民家鑑定士資格を有した専門の調査員が、ご自宅にお伺いして、コンディション等を調査いたします。また、そのデータを元に鑑定書を発行いたします。
 鑑定書の内容は、その建物が移築や再生ができるコンディションにあるか、あるいは古材などの部材が再生可能な強度を有しているかなど、建物の耐久性に関しての判定と、その建物を売買する場合の価値を固定資産税の評価基準とは別の観点から価格をお付けするものです。

「宅地建物取引業法第34条の2第2項」及び、不動産の鑑定評価に関する法律に基づく不動産の鑑定評価書ではありませんが、一般社団法人200年住宅再生ネットワーク機構独自の、古民家のリユース促進のために定めた判断基準に沿って価値を表したもので、古民家売買の法的証明などにはご利用いただけませんが、古民家の価値を経済性の側面からだけでなく伝統的な建築様式で文化的に残すべきものとして考える機会になると思います。

古民家床下インスペクションについて

床下インスペクション調査とは、木材の腐朽やシロアリなどの知識を有する古民家床下診断士有資格者が、床下を自走式床下点検ロボットなどを使い依頼者とパソコンの画面を見ながら点検し、翌年以降も年に1回点検を継続しできる限り薬剤に頼らずに床下環境を維持するためのものです。

床下点検ロボット(moogle:モーグル)を遠隔操作して調査することにより、人が入り込めない空間の調査も可能で、パソコンモニタでリアルタイムに点検箇所を確認できます。
床下インスペクションの内容は、古民家再生総合調査に使用されます。

伝統耐震診断について

 建物は常に地震発生時以外に置いても微細な振動を受けて建物自体も振動を起こしています。正確には交通機関や各種機械などから人為的に受ける振動や、風や波浪などの自然現象に基づき地盤が小さな振動をしています。
 伝統耐震診断は、伝統構法の耐震診断の知識を持った伝統耐震診断士有資格者により、微細な地盤の振動と、それに起因する建物の振動を同時に計測しその振動データを解析処理する事で建物の振動特性値を求め地震の際に建物がどう地震応答での振動をするかを推測し、耐震補強が必要か否か判断し、補強が必要な場合、補強プランを作成します。(補強プラン作成は、耐震診断とは別途費用が掛かります。)
 実際の計測は地震計を建物近くの地盤面と、建物中央部の2階床面に水平直角方向に建物の短辺方向、長辺方向に設置して数分間振動を測定、これを5回繰り返しデータを収集して解析を行います。
 この耐震診断は、伝統構法の建物並びに、伝統構法の建物に現在の建築基準法に定められている在来工法により増改築された混構造の建物の耐震性能を診断し、また耐震改修工事施工後に再診断を行うことにより、耐震性能の向上を実際に確認することが可能です。

耐震補強計画について

 伝統耐震診断により、耐震補強が必要と判定された場合、その旨ご報告させて頂き、補強プラン作成をお申込み後、伝統耐震診断士有資格者が補強計画を検討し、補強プランの作成を行います。

 補強は、在来工法とは違い、基礎は石場建てのままで、また、筋交いは使用せず、古民家耐震パネル型面格子壁と制震ダンパーでの耐震改修計画を策定します。

 布基礎やべた基礎などの大規模な改修を必要としない、伝統構法の躯体、構造様式をそのまま活用できるなどのメリットがあります。尚、解析は時刻歴応答解析法で行い、現況に即した補強プランを作成いたします。

補強プラン参考例
古民家耐震パネル型面格子壁設置状況
制震ダンパー設置状況

古民家再生総合調査、耐震改修工事のフロー図

※伝統耐震診断並びに耐震改修を実施することで、住宅リフォームかし保険(住宅保証機構 まもりすまいリフォーム保険)を伝統的な建物においても付保できます。